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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)417号 判決 1953年11月10日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人の上告趣意について。

論旨は結局において採証法則の違背、事実誤認又は審理不尽の主張に帰し、いずれの点も適法な上告理由とならない。

弁護人加藤晃の上告趣意第一点について。

原判決が所論三斗入甕一箇を没収するにあたり原判示の時の酒税法六〇条三項の外に刑法一九条二項を適用したことは所論のとおりである。しかし所論引用の当裁判所の判例は、「本件の没収については酒税法六〇条三項及び六四条二項だけを適用すればよかったのであり、刑法一九条二項の引用は蛇足というべきだが、本件の没収物件は被告人以外の者に属しないと原判決も判示している次第であって、刑法一九条二項の趣旨にも反せず、いずれにせよ原判決を破棄すべき程の法律適用の誤とは言えない。」と判示しているのであるから、この判例に従う限り原判決を破棄すべき理由はない。次に所論援用の大審院の判例は基礎となる法令を異にするものであって本件に適切でない。論旨はまた違法違反の語をも用いているが、名を憲法違反に藉るだけの主張に過ぎないから、採用できない。論旨はすべて理由がない。

同第二点について。

原判決は、第一審判決を破棄したが、それは事実の確定に影響を及ぼすことなき法令適用の誤りを理由としてなされたのであった。このような場合に自判するに当っては、第一審判決の認定した事実を基礎としてこれに法令を適用することが正当であること、当裁判所の判例(昭和二六年(あ)二九四三号同二八年八月七日第二小法廷決定)の示すとおりであって、原判決には所論(一)のような違法はない。

第二審判決が第一審判決の確定した事実を前提としてこれに法令を適用する結果として、所論(三)のように上告申立ての理由の範囲が狭くなるとしても、それは現行刑事訴訟法の建前がそうなっているのであるからやむを得ないのであって、そのために所論のような憲法違反の問題を生ずる余地はない。けだし上告理由を如何なる範囲まで認めるかについては、憲法はみずからこれを定めず、これを立法に委ねていること、当裁判所の判例(昭和二二年(れ)五六号同二三年二月六日大法廷判決)の示すとおりだからである。

原判決は第一審判決が認定した事実を前提としてこれに法令を適用したものとすれば、所論(二)のような第一審の事実を認定するために採用された証拠に関する非難は上告適法の理由とならない。のみならず記録(九〇丁裏)を調べてみると、第一審裁判所は「検証調書」の証拠調をしているから、その判決文に「検証の結果」と記載されているのは「検証調書の記載内容」の意味であることがわかる。従って論旨はその立論の根拠を失う。要するに第二点の論旨はいずれも採用することができない。

同第三点について。

所論憲法違反の主張は、その前提がすべて誤っていること上記のとおりであるから、主張そのものも成り立ち得ず、採用することができない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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